■奈義町現代美術館は岡山県奈義町にある。Culture Powerのリファレンスでその存在を知って以来、一度は訪れたいと思っていたのだけど、交通の便があまり良いとは言えず永らくためらっていた。でも、まあ、思い切って行ってみることに。岡山駅から津山線で1時間半。終点の津山駅からさらにバスで1時間弱といったところか。
新幹線で岡山駅へ。そこから津山駅は1110円。快速もあるようだけど、乗ったのは各駅停車。走り出して15分もすると2両編成の列車は山の中。旭川沿いに遡行する。旅情、といえば旅情だけど、この行程の行き着く先に現代美術館があるかと思うと不思議な気がしないでもない。伊勢現代美術館に初めて行った時もけっこうな奥地で途方に暮れたけれど、こちらはそれ以上ではないかという予感が。
津山駅前に広域バスセンターというターミナルがあり、そこで行方(ぎょうかた)行きのバスに乗る。電車とバスの連絡が良くて乗り換えはスムーズ。良すぎて昼を食べる時間もないくらいで、駅のコンビニで買ったサンドイッチをターミナルの待合所内で詰め込む。
バスは国道53号、岡山街道沿いに走る。このあたりは盆地のようで、乾いて間延びした郊外のような風景が広がっている。空きテナントの目立つロードサイドスケープ。50分ほど走って、「奈義町現代美術館前」バス停に。790円。
まず帰りのバスの時間をチェックしようと反対車線にあるバス停を探してまず衝撃。時刻表がない。これも作品かと思いました。時刻表は地面に置かれていました。
美術館は交差点脇の風車が目印。街路樹が陰を落とす、ゆるく続く坂道を登る。斜面に伏せるように馴染んだ建物が眼に入り、特徴的なシリンダーからこれが奈義町現代美術館の建物と解る。
今まであちこちで見てきた美術館はどれも展示室を持っている。俗に(?)「ホワイトキューブ」と呼ばれたりもする、あまり特徴のない、大きな四角い部屋に作品が展示される。でも、奈義現美は展示室自体も個性的で、そこに作品が嵌まっている。だから、宮脇愛子、岡崎和郎、荒川修作のそれぞれの作品を展示するためにこの美術館はあることになる。単なる四角い部屋に展示されていない大型の作品で、美術館施設そのものがインスタレーションの場のようになっていました。
宮脇愛子の作品(「大地」)は水と石、2つの間に数多くのステンレスのロッドが半円に曲げられて床面に刺さっている。ロッドは自重でたわみ、中空滑らかなカーブを描く。永遠の時間、クロノスを思わせる配置。そのまま突き当たりに各種作品資料を収めた小部屋があり、左手は「月」右は「太陽」。「月」には岡村和郎の庇が。「月」の部屋の床面は三日月のような形で、足音が大きく反響する。時の終わりのような寂寥。
「太陽」に収まっているのは荒川修作の「奈義町の竜安寺」。以前訪れた養老天命反転地を彷彿とさせる、どこにも水平面がないインスタレーションで、転びそう。強引に見立てれば死と再生、誕生。「月」と対にすればここは「始まり」
施設内にはギャラリーもあって、行った時は「~淡い浮力~ 花田洋通 展」が開催中。常設展示作品に比べるとずいぶん線が細い作品だと感じました。悪い印象では決して無いのですが、儚い、か弱い印象ではありました。都会の中のギャラリーであれば物足りなさは感じないだろうと思うのですが、大型の常設作品のそばに配置されてしまうとちょっとつらい。
帰りのバスの時刻が気になって、ばたばたと追い立てられるように引き上げ。もう少し、気持ちに余裕のある状態で観に来るべき場所ですね。それにさすがに移動コストは気になります。どうにもなりませんが。
でも、永い事念願でしたので、拝見できて良かったです。