ラファエル前派

■先週三菱一号館で「唯美主義」を観てラファエル前派を観たくなり、森アートセンターギャラリーの「ラファエル前派展」に。開館時間前についたのに、受付前には行列ができていてぎょっとしたのですが単に開館待ちだけで、あまり列が増える様子もありませんでした。実際、会場は混雑らしい混雑もなく、だいぶゆっくりと観て回ることができました。

 目当てだったのはエヴァレット=ミレイの『オフィーリア』。シェークスピア『ハムレット』に題材を得た作品、ということは今では分かっているのですが、初めて見たときはそうした知識もなく、なぜこの人は服を着て川に入っているのだろう、と不思議に思ったことを覚えています。
 オフィーリアは悲嘆にくれて川で溺れた、悲劇の女性ということになっているのですが、ミレイのオフィーリアは溺れているようには見えません。低体温症で生命を落とすことはあるかもしれませんが、それにしても描かれている川辺の青々とした景色、そして川面に顔を出しているオフィーリアの姿は死からは遠いように感じます。絵全体が持つ生命感が死を感じさせないのですね。
 それともう一つ、ミレイの『オフィーリア』を見るとビル=エヴァンスの『アンダーカレント』のジャケット写真を連想します。あちらは水中写真ですが、状況としては同じです。『アンダーカレント』は「伏流」といった意味ですが、「潜在意識」といった意味を持って使われることもあります。生命感にあふれる川辺の景色の中に水中から浮上するオフィーリアの姿、のように見えなくもなくその意味するところの解釈に幅が広がるようにも感じます。もちろんもともとの「ハムレット」の文脈とは全くかけ離れてしまうわけですが。

 三菱一号館の「唯美主義」はヴィクトリア朝後期の流れを大きく押さえていましたが、こちらはあくまでも「ラファエル前派」にとどまり、アーツアンドクラフツ運動へのつながりなどは簡単にキャプションで提示されるにとどまっています。「ラファエル前派」展なのだからだとは思いますが、当時の社会的な背景の中での運動の位置づけが解りやすかった「唯美主義展」の方が見どころは少なかったですが面白かったように思います。美術史的な視点では三菱一号館、ということだったのかもしれません。

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作成:2014.03.02
公開:2014.03.15

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