■五月の前半、梅雨入り前のまだ乾いた初夏の空気の中、鎌倉の神奈川県立近代美術館へ行きました。版画家、一原有徳の回顧展「版-無限の可能性」を観に行きました。先日横浜美術館で近代木版画展を観たときに、「版画展なら鎌倉で何回か…」と思ったのですが、鎌倉の版画展は銅版画が中心でした。浜口陽三のコレクションが別館にときおりかかるので、その印象があったのだと思います。長谷川潔も鎌倉で観たように思ったのですが、これは同じ横浜美術館の2011年の企画展でした。浜口陽三にしても長谷川潔にしても銅版画です。今回鎌倉の一原有徳の回顧展も銅版画の系統(アルミニウムとか鉄板とか母材はいろいろ)。
木版画作品と違って銅版画作品はシャープな印象であることが多いのですが、今回の回顧展で展示されていた作品もやはりシャープな印象がありました。版元制作のプロセスは解らなかったのですが、金属の母体を薬剤で腐食させたり、あるいはアルミ箔を重ねたりして具体的な図象とは違う、意図しないパターンを作り出していったようです。
幾つかの作品ではCGのような幾何的なパターンを持ったものもあり、その作成プロセスを思うと不思議になりました。
図象の生成は半ば偶然に支配されているのではないかと思うのですが、観る側の印象はそれとはまた独立して、何か意図があって制作されたように見てしまいます。明るい発色、踊るようなパターンを持つ作品は記憶に残っています。色彩のパターンそのものに生命がやどり動いているかのような印象があり、見飽きることがありませんでした。最近制作されている現代美術作品に通底するポップさを感じることはなく、その点は不満といえば不満かもしれませんが、沁みるような印象が残りました。
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