■新橋の資生堂ギャラリー。年度も改まって最初の展示はさわひらき(Sawa,Hiraki)のLineament展。映像作品でじっくり見ていると時間がかかるが、引き込まれて見入ってしまった。マグリットの絵画を思わせるようなモチーフも登場し、シュールリアリスティックな雰囲気。映像の質感は詩情を湛え、美しい。
Lineamentは連続体。映像の中では、一人の男のアイデンティティがあやふやになっているさまが象徴的に描かれる。自己とは記憶、レコードであり、その連続体である。それは身体とはまた違うレイヤーにおける自分を象る。しかし、記憶されたものは全て過去の事象であり、それらをとどめているのは常に現在における物理事象である。そのねじれが記憶のあやふやさの根源となっており、そこから自己という連続体がゆらぐことになる。「今ある記憶は、つい先ほど植えつけられたものかもしれない」という疑問は、記憶というものが常に現時点であるものゆえに、常に成り立つ。そして記憶から抜け落ちたものはもはや知りえない。
さわの作り出した映像世界は美しく、詩的であり、言葉を伴わないゆえに謎めいていて引き込まれる。ずうっと見続けていたいと思うものの、映像は20分弱で終わる。
新橋を後にして、定番の京橋、LIXILギャラリー。吉田夏奈の Panoramic Forest, Panoramic Lakeは例によって幾何平面に転写された自然のランドスケープ。先日のあざみ野ギャラリーで見た時とは違って、今度は平面に。Panoramic LakeはLakeと名付けられているものの、実際には山々の稜線で切り取られた空を内に閉じ込めるように座標変換した作品。湖のように見えるのは空で、空を取り囲む湖岸は稜線であり、その周囲を取り巻くのは連なる山肌となっている。
やきものギャラリーの方は「都丸 篤子 展 -陶 やわらかい白のかたち-」。分割球面を基本とし、やわらかい曲面を組み合わせた造形は花のつぼみのようにも見える。一見して陶器に見えない造形で、それは面白いのだけど、何かもうひとつ欲しかったような気がする。