■フランシス・アリス展後期の「ジブラルタル編」では人が世界に人為的に引いた線、国境線を扱う。全編に比べると作品点数は少ない。展示の中心になるのはジブラルタル海峡の両岸を結ぶパフォーマンスプロジェクト『川に着く前に橋を渡るな』で、そのパフォーマンスに関連するイメージを展開したドローイングやインスタレーション作品群が展示されていた。
『川に着く前に橋を渡るな』はジブラルタル海峡を挟むスペインとモロッコの両岸から、それぞれ100名の子供が船のおもちゃを手にして一列にならんで海に入るというもの。
モロッコとスペイン双方から出発した子供たちは、おそらく海峡の中央付近で出くわすことになるだろう(たぶん)。それはヨーロッパとアフリカという2つの大陸が飛行機や船や橋などを介さずに直接行き来できる地域であることを示すことになる。その時、「ヨーロッパ」と「アフリカ」という対立的関係は解消される。人々が自由に行きかうことができる連続した地域というかたちになるからだ。
ただ、実際のパフォーマンス映像を観ると、結構危ないんじゃないのかなという気がしなくもなく。けっこう波も荒かったし。もちろん幅14kmにおよぶ海峡を実際に歩かせたわけではなく、あくまでも子供たちが行き交う様を想像させる、という表現にとどまるわけですが。
国境というものはもちろん人間が勝手に決めた仮想の線で、もともとそんなものがあるわけもない。その「国境線」を象徴的に表現したパフォーマンスが『レタッチ/ペインティング』となるだろう。パナマ市内の道路にある消えかけた中央分離帯を手で塗り直すというパフォーマンスが象徴するものは、国境は本来自然の中では消えていくものであって、それを塗り直すことで再び土地は分離されてしまう。本来土地を分離させる線などない、その線を作るのは人々の認識なのだ。