■東京都写真美術館。常設の「自然の鉛筆」は写真技術史的な展示。同時期の展示は田村彰英「夢の光」、鋤田正義「SOUND&VISION」。常設はともかくとして、写真から伝わってくる熱気のようなものが対照的な田村と鋤田の展示を平行して開催するのは面白いと思いました。
「自然の鉛筆」は写真術が登場した当時は、適切な光化学の選択とコントロールであったことを思えば当然ですが、デジカメ全盛の今から思うと、その発想は新鮮でした。展示作品は有名な写真で、見覚えのあるものが多いのですが、実物を眼にするというのは、またミーハー的な楽しみがあります。
田村彰英の写真は淡々と変わり行く日本の都市・郊外の景色を描写しています。印象的だったのは都市開発の最前線の現場写真で、そこは開発の真っ最中であるために、都市景観と開発以前の景観の不連続面となっています。その不連続性が都市空間の本質的な「不」自然さを表しているように思えます。もっとも、今の都市空間が侵入していった「自然」も、すでに人の手が入っていた半ば人工的な景観であったはずなんですけども。
これに対して鋤田正義はコマーシャルフォトグラファで、被写体となるのはアーティスト達。当然「魅せる」ことが目的となっていて、その写真からは被写体自身と、写真家の顕示欲があふれてくるようでした。その熱っぽさが田村の淡々とした写真とは対照的で、躍動感に溢れている。田村を有名にした写真集の'BASE'は在日米軍基地をやはり淡々と撮影したものですが、これを鋤田が同じテーマで撮ったら全然違ったものになるだろうということは容易に想像がつきます。
同じテーマであっても人によって切り口や目線が違う。その多様性が写真にも現れてくるというのは面白いと思います。
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