■夏季休暇の時期に神奈川県立近代美術館は「鯰絵とボードレール展」という地味な企画展。最近寄贈された気谷誠氏(1953-2008)のコレクションということで、アネックスの新収蔵作品展と併せて、美術館の新コレクション展という格好になる。
鯰絵というのは安政地震(1855)の後に描かれた、ナマズをモチーフとした錦絵のことで、地震そのものに対する怒りや畏れから、震災復興景気で儲けた人々への批判など現代でも通じる世情を見てとることができる。
安政年間は大地震の多かった時期であることや、それに先立っての黒船来航など、様々な世情不安が鯰絵を描かせたことは想像に難くない。描かれるテーマは鯰が様々な形で懲らしめられ、反省させられているといったもので、表現方法は言ってしまえば幼い。ただ、そうした絵を描かざるを得なかったのだろうということも想像できる。大地震の被災は誰に責任を問えるものではないことを誰もが解っているから、何か感情をぶつける先としてのシンボルが必要だったのだろう。
ただ、その漠然とした「地震」のゆるキャラとしての鯰は、やがて震災復興景気で潤う土建関係者が登場すると、容易に乗り換えられてしまう。具体的な感情の掃け先がやはり必要だったのだろう。
その構造は昨年の大震災以降発生した、ファナティックな電力会社バッシングと重なる。時代が変わっても人の心は今だ安政年間と変わらなかったということなのだろう。
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