■横浜にある新聞博物館へ石巻日日新聞が震災当時に発行していた手書きの新聞を観に行った。新聞業界の広報的な博物館でもあるので常設も力が入っていて、その技術的な発展の歴史については面白かった。手書き新聞は、その見てくれだけは小学校の時に作った壁新聞のようなものなのだけど、実際に当地の状況を毎日伝えていた媒体であることを思うと軽いものではないわけで。会場では実際の編集現場の写真もあって(へんな余裕があるなあと思ったのですが)、そこでは大きな紙に手書きしている最中に校正が入っている場面もあり、大変な手間だったことが伝わってきます。手書き新聞というと先日観た吉村芳生展を連想しますが、その大変さというのはまた質が違うわけで。逆に吉村芳生がこの新聞を前にした時、どのような表情をそこに写しこむのかと思います。
新聞博物館はみなとみらい線の日本大通り駅前にあり、午前中に見終わったあと、さてお昼をどうしようかと思い、久しぶりに横浜美術館のCafe大倉山にしようかと。横浜美術館はやはりみなとみらい線のみなとみらい駅に程近く、移動もしやすいし。それにちょっと気になっていた長谷川潔展も開かれているし、ということでそちらへ移動しました。
「長谷川潔」の名前は広島市現代美術館で開かれていた常設「ことばの窓」展でも版画が展示されていましたし、これも何かの縁という気もしますが、ビッグネームですから出くわさないほうがおかしいのかもしれません。長谷川氏は戦前に渡仏し、当地でメゾチントという手法を再発見し、後半生はほぼメゾチントのみで版画を制作した作家です。
メゾチントという技術は、まず銅板の表面に細かい傷を一面につくります(目立て)。インクは銅板に刻まれた溝に載るので目立て直後は一面が黒に刷り上る状態になっています。そのあとで目立てられた面を磨いて傷を減らしていくことで「白い面」を作り出す。ドライポイント、エングレービングという技法が描線を作り出す方式で、仕上がった絵がペン画に類似したものとなるのに対して、メゾチントは濃淡のある面を作り出す方式となり、仕上がった絵には主線がなく柔らかい印象となります。長谷川の作品の目たては細かいクロスハッチングで、その溝は銅面を磨いても縁の部分に細かく残りますから、連続した線というものがむしろ表現できない。
ただ、その特徴ある表現がドライポイントやエングレービングで描かれた白く、シャープな絵とは違って優しい薄暮のような印象を残します。
ベースがクロスハッチングの目立てによる面なので、黒から始まるというのは解るのですが、ただ、その面を磨いて傷を消していくと、その部分全体がへこみので、むしろインクが多く乗りそうな気がするのですが、そうはならないようなのでなんとなく不思議な気がします。そこはまだどうにかなりそうな気はしますが、そこからさらに目立ての潰し方だけでトーンコントロールしているというのが不思議な感じがします。技法の説明は読んでいて、理屈はわかるのですが、ピンと来ません。そこは実際にやってみないと解らない世界なのでしょう。