欲望のコード

■NTTのインターコミュニケーションセンター(ICC)が今ひとつ元気の無い今、ハイテクメディアアートの発信地といったら山口のYCAM。あんな山間の盆地でひっそりと活動していて、地元では今ひとつ地味っぽく、夏休みともなれば無料で公開されているインスタレーションの前で宿題していたりして、「お前ら自分がどんだけ恵まれている環境にいるのか知ってるのか」と詰問したくなるような、面白い施設。個人的にちょっと残念なのは、企画展のスパンが結構長くて、なかなか頻繁に訪れる機会がないことか。そのYCAMで新しい企画展が始まった。「欲望のコード」

欲望のコード展@YCAM

「欲望のコード」は昨年度ICCの長期常設展示されていた「重力と抵抗」を制作した三上晴子(+市川創太)の新作インスタレーション作品。かなり規模の大きなもので、YCAMのスタジオAの片側の壁面全体にそれぞれウェブカムの取り付けられた90本のアームが来場者の映像を取り込み、スタジオ中央の天井から吊るされた6本のアームの先に取り付けられたカメラが来場者の動きをトレースし、プロジェクタがその映像を来場者の足元に投影する。そして90基のウェブカムで取り込まれた画像は、虫の複眼がとらえた視覚のように、スタジオ奥の壁に投影される。

 ところで「欲望のコード」の英題は'Desire of Codes'であり、これは「コード化の欲望」とでも題するのが適切ではなかったのかと思う。来場者の姿が無数のカメラでスキャンされ、記憶され、監視メカニズムの中に再構成されるそのプロセスは、「コード化」そのものであり、確かにそのようなプロセスを面白がる自分がいるのを自覚するからだ。このメカニズムがパラノイアチックな監視メカニズムに他ならないにも関わらず。そして、「コード化」することの欲望とは、他人をコード化することで「把握すること」、極論すれば支配欲なのだろう。

「欲望のコード」に関連して、他2つのインスタレーション展示。「重力と抵抗」はICCでも観ていたけど、YCAMはニューバージョン。感圧床にかかる圧力を取り込んで、重量の雰囲気で来場者の存在を表示する。一人で行くよりは大勢で乗ったほうが面白そう。
 池上高志のMTM[Mind Time Machine]は残念ながら調整中。ただ、コンセプトとしては「欲望のコード」に似ていると感じた。来場者の姿を映像として取り込み、加工して、編集して、提示する。情報処理された個人は、情報空間の中で再編集され、個人とは独立した、しかし関連を持たないこともないプロファイルとして存在している。そのプロファイルはオリジナルの個人そのものではないが、情報処理社会の中では、個人はプロファイルを通して把握されている。情報処理プロセスの中でオリジナルは主体から後退し、影のような存在となっている。それはMTMだけでなく、「欲望のコード」でも同じ構造は見て取れるし、「重力と抵抗」も同様だ。個人を把握する手段として媒介物を持ち込む限り、「コード化」のプロセスから逃れることはできない。

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作成:2010.04.24
公開:2010.05.10

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