■横浜美術館の2014年度最初の企画は「魅惑のニッポン木版画」。明治末期頃に活躍した川瀬巴水や吉田博の繊細な描線と色調を持つ作品は都現美で見ていて、何度見ても見飽きないのだけど、同じ木版画でも浮世絵の頃のフラットな色調や様式的な描写はいまひとつノれないし、戦後の棟方志功のような力強い作品もそれはそれで、すこし重たい。「ニッポン木版画」という名前を見て連想したのはそうした浮世絵や棟方的な骨太な力強い作品で、正直ちょっと趣味じゃないかもなあと思っていた。でも、せっかく招待券もらったし、日テレBSのぶら美で取り上げられていたのを見たら面白そうだったので見に行きました。
漠然の「日本の版画」っていったら神奈川近美にもコレクションあるし、町田にはずばり版画美術館があるし、そちらとかぶったりしないかなと思ったのですが「木版画」というのがポイントでした。神奈川近美のアネックスでちょくちょく公開される長谷川潔は銅版画だし、町田市立国際版画美術館も木版画のみというわけでもなく。
木版画は銅版画と比べると描線が柔らかいのが特徴ですが、木口彫りによる、シャープな線を持つ硬質な表現が時代が下るにつえて増えていくような展示でした。それでも銅版画ほどのシャープさにはならないようです。
川瀬把水、吉田博の作品は写真作品のような絵作りをしていて、その目線の置き方が木版画の流れとして後に続かなかった理由もなんとなく解ったのは面白かったのですが、それとは別に発色や絵作りで惹かれた作品がありました。
来日して木版画の技術を習得したヘレン・ハイドの「亀戸天神の太鼓橋」が題材の選び方や構図、しだれ柳のピンクと子供たちが来ている着物の黄色の組み合わせが強い印象を残しました。とても印象に残ったので絵葉書か図録でも、と思ったのですが、印刷物だと淡い発色が再現できていないようなのでやめました。2007年の千葉市美で公開された時のイメージが残っていますが、この図だと黄色が強すぎ、しだれ桜のピングが暗く沈んでしまっていて本物とは印象が異なります。やはり、Webで見つかる図象で満足せずに実物は観るものだと感じます。
また、意外だったのは最近の「現代美術」として作られる木版画作品があることでした。さまざまな表現手段の選択肢がある現代では、あえて木版画を選択することの難しさというものがあると思います。デジタル技術によって木版画「的な」表現に加工することも可能ですが、そこで木版画でなければ出せないテクスチャを持たせるために木版画を使うか、木版画の制約を打ち破るような、木版技術そのもののイノベーションを目的としているような作品の2つの傾向があるように思いました。ただその2つの傾向というのは木版画に限らず、ほかの表現技法でも同様なはずで、その意味では木版画も他の表現手段と同様、いまだ活気を残しているということなのだと思います。