■金沢2日目。ホテルの朝食は期待できなかったので、どこで朝食をとろうかとかいろいろ思案して、まず8:00にはチェックアウトして長町武家屋敷跡を一巡してから、朝マックを調達し、金沢21世紀美術館周辺の開放空地で朝食にしようと計画。企画展は10:00始まりだからちょうどいいかなと。計画しているときはそう思ったんですけどね。
長町武家屋敷跡は、香林坊近くにある武士町の古い建屋をピンポイントで保全し、往時の武士町の街並みを偲ばせています。初日のひがし茶屋は町屋のファサードが連なって景観を構成していましたが、こちらは土塀と植栽が主体になります。観光客としてはこういう景観を大規模に確保してもらいたいものですが、それではテーマパークになってしまう。それでも、土地の記憶として永く残して置いて欲しいと思います。
で、朝マック。
金沢21世紀美術館は金沢の官庁街の中にある低層の建造物で、ちょっと変わった公園の建物、みたいな見かけです。それにしても人が多いなあと思っていたら、この日はイベントがあったのでした。なんかおもちゃの汽車が走っているし。
ロン・ミュエックは非等身大の人物モデルを制作する作家です。そのサイズも特徴的ですが、作られるモデルの生々しさも目を惹きます。
そういった前知識は仕入れてあって、実際どんなものなのかとチケット売り場に行ったら、えらい行列ができていました。これはびっくり。森美の「アートは心のためにある」展もたいがいな混雑ぶりだと思ったけれど、ここまで行列にはなっていなかった。さすが連休中、と若干後悔しつつ中へ。平行して日展も開かれていましたが、そちらはパス。
作品を目の当たりにして感じたのは、モデルそのもののリアルさは前評判通りとして、ともかく会場に置かれたモデルが作り出す状況への臨場感でした。作られたモデルのサイズが等身大から外れることで、観客の目線がコントロールされてしまう。生まれた直後の新生児をビデオ撮影した場合、その目線は見下ろす格好にどうしてもなってしまいますが、《ガール》(Ron Mueck, A Girl, 2006)はそのサイズゆえに、観客は目の前に大きく横たわる「新生児」を見下ろすことができません。胎内から生れ落ちた直後の、まだ臍の緒も残っている彼女の存在感に圧倒されてしまいます。
《小船の中の男》(Ron Mueck, Man in a Boat, 2002)の男は小船のへさきで腕を組んで座り、不安気に船の行く先を伺っています。こちらは《ガール》とは違い、ほぼ等身大です。観客は小船の両側から男をしげしげと眺めては去っていくわけですが、男にそうした視線に気づいている様子はありません(当然)。運命を船に委ねてしまい、その赤裸々な状態(何しろ服を着ていないし)を大勢の人にしげしげと見られている姿は何やら身につまされます。
《イン ベッド》(Ron MUeck, In Bed, 2005)はベッドの中で物憂げに見上げる女性の姿ですが、会場ではリンク先の写真にあるように見下ろすのではなく、フロアから見上げることになります。喜んでいるわけでもなく、悲しんでいるわけでもない、ぼんやりとした感情を持って朝を迎えた人の間近にあって、これも当然観客の存在に気づいてはいない。これで目線が下に向いていたら会場の雰囲気はかなり微妙なことになっていたと思います。ちょっと気になったんですが、会場で見ると膝の盛り上がりと思われる部分が、ずいぶん胸の側にあって、真横から見ると何か不自然です。左足の下方から眺めるとプロポーションが適正に見えるように思ったんですが、これはそういう計算だったのでしょうか。
企画展を見終わって、あとは常設展示。こちらはミュエック展のようにインパクトを与えるようなものではなく、言ってしまえば和み系。ガイドブックでは必ず紹介されるタレルの《ブルー・プラネット・スカイ》、レアンドロの《スイミング・プール》、ファーブルの《雲を測る男》など。《スイミング・プール》はオーディエンスが多すぎて、プールっていうか、何かの水漬け状態。人が多いのは喜ばしいことですけど、もう一度来るとしたら絶対オフシーズンだな。
8月以降にコレクション展がスケジューリングされているようなので、機会があれば訪れてみたいものです。昼食は美術館付属のレストランで、と思っていたのですが、当然そんな状態ではなく、ミュージアムショップで数点買い込んで後にしました。