■7月に横浜美術館で始まった企画展は蔡國強の「帰去来」。火薬を燃焼させた痕跡を使って描く、というより、火薬の燃焼プロセスそのものが作品であり、「作品」はそのアクションがあった形跡のような感じがします。一瞬で燃え上がるその過程そのものを定着できたとしたら、そちらを作品にしたのではないかという気がします。その制作プロセスに加われなかった観客は、作品に残る燃焼の痕跡から作品の上に躍ったであろう炎を想像することしかできない。
個人的には、火薬の炎上痕というのが今ひとつキタナク見えてあまり好きではありません。火薬に火をつける過程を収めたビデオを観るとなるほどと思うのですが。炎上する火薬の炎は生命力の奔流そのもので、その痕跡を定着させた「春・夏・秋・冬」の4作品では性愛の場面が描かれています。そこに溢れる力を見出すのは容易です。
ただ、火薬を使っていない大型のインスタレーション作品もあり、個人的にはそれが一番引き込まれました。「壁撞き」という作品では99匹の狼がガラスの壁に体当たりを繰り返す様が表現されています。繰り返し繰り返し続く壁を突破しようという試み。それは社会の様々なところで見られる、古くから続いてきた人の営みのようにも思います。
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