■初台のオペラシティーアートギャラリーは今年度に入ってから半年近く北野武の個展を開いていたので、しばらく足が遠のいていた。9月に入り、北野武展が終わって、ショートリリーフのような「アトリエ・イン・カーブ 3人展」の展示。大きく謳ってはいないけれど、知的障害者の手による3人展です。最初の部屋に展示された大型の絵画が、びっしりと細かく、粘着質的に、あるいは執念的に細かく同じモチーフが繰り返し描きこまれていて、どうもそれっぽいなと感じたのですが、やはりそうでした。ある意味「つたない」という表現はあたっていると思うのですが、「子供っぽい」わけではない絵です。「知的」障害とは呼ばれますが、実際のところ、障害の存在する部位はごく僅かなものでしかないのではないかという気がしています。
リベットを打たれた鉄骨をモチーフにした作品や、躍動感・肉感あふれるプロレス技を描いた作品、旅行した先の建物や料理などを記録するように描いた作品と、作家によって扱う題材はそれぞれ個性的です。ディテールは写実性にこだわりはないようで、描きたいように描いているというか、のびのびと描かれている。鉄骨をモチーフにした作品はほとんど抽象絵画の域に入っていると思うのですが、他のプロレス技や旅行先で見たものを描いた作品は、題材が身の回りにあるだけに写実性からは程遠く、その意味で上手・下手で言えば下手と思われてしまうように思います。
ただ、その下手さは「子供っぽい」シンボリックな図像で描かれるつたない絵とは違って、見た時の印象を表現しているようでした。見たままの映像を再現する、イディオ=サヴァン症候群とはその点は明らかに違っています。
執念的に繰り返されるリベットのモチーフや、やはり執念的に描きこまれるプロレスラーの筋肉の表現、おそらく実物よりもビビッドな色彩の組み合わせで彩られた作品など、一人一人の表現の核にあるものは個性的です。それら特徴に気がつくと、「洗練された」作品を制作する、いわゆる美術家との違いがどれほどのものなのかと思わずにはいられません。
せっかくオペラシティーへ行ったので、ついてにICC。シルバ・グプタのインタラクティブな影絵「シャドウ#2」や、ジョン・ウッド&ポール・ハリソンのじわじわくる「10x10」、成瀬つばさのイージーラップミュージックジェネレーター「リズムシさんのへや」が面白かったです。