■横浜と山口を往復していれば、もちろん途中の土地に立ち寄ることも可能なわけで、そういう意味で活気ある美術館を有しているのは名古屋(というか豊田市)、京都、大阪あたりか。広島ももちろんあるのだけど、こちらはべつに途中立ち寄るまでもなく、山口からなら普通に行きやすい。
今回立ち寄ったのは久しぶりの大阪は国立国際美術館。「絵画の庭」ということでいわゆる現代美術にカテゴライズされるうち、ドローイングのみに絞って多数の作家作品を集めたもの。インデックスという意味ではいろいろと面白かったです。
メジャーどころでは、会田誠とか、奈良美智とか。加藤泉とか加藤美佳、小林孝亘、タカノ綾。そして未だ現役の草間彌生。
加藤美佳の「カナリア」はやっぱり人だかりができていました。国立国際の会場はB2,B3の2つに分かれているのですが、そのうちB3のフロアは愛知美大系の作家が揃っていて、昨年末に愛知県美で開催された「放課後のはらっぱ」での展示を彷彿とさせていました。
会田誠の作品は今まで幾つかの展覧会で眼にしていたのですが、今回は「あぜ道」「ジューサーミキサー」「滝の絵」の3点で初めて眼にするものばかりでちょっとうれしい。美少女が数多く登場するわけですが、フェティッシュな扱われ方で〈生きている人〉という感じがしません。少女の姿かたちをした何か、のような。
出展作家の数は28とずいぶん数が多いので、自分にとっては知っている人よりも知らない人のほうが断然多い。
個人的に面白いなあと思ったのは例えば花澤武夫。たぶん構図やモチーフを古典的な絵画に求めていることは解るのだけど、そこは教養の無い悲しさで原典が解らない。日本画の構図だけを使い、技法は油彩で、モチーフも日本には無いもので置き換えたパロディ的な可笑しみがありました。
小沢さかえも印象に残っています。昨年の鴻池智子「インタートラベラー展」でも感じたのですが、というか、それ以前から自覚があるのですが、何か物語性を感じさせるものにとても強く惹かれる傾向が自分にはあります。小沢さかえの作品は「インタートラベラー」ほどの大きな物語世界とまではいかないにせよ、何か小品の断片を感じさせて好きになりました。「せーので時空を超えようか」とか「世界は夢になり、夢は世界になる」なんてタイトルも小説風です。ただ、オルタナティブな世界への逃避を思わせる作品が多いようにも感じていて、何か、か弱い印象もありました。
パロディ的な、と自分は受け止めたのは花澤武夫ですが、そのぬえ的なモチーフを日常の中に読み取り、ユーモラスに批判するのが厚地朋子。「SPAと温泉」は日本の古い旅館が持つ内湯にヨーロッパのSPAを利用する人々の姿をそのままにはめ込んで描いていて、微笑みもひきつります。それと同様な構造を持つのが「ウインナーバザール」で、一見ウインナーを扱う市場の風景(しかし、それは肉屋の景色ではない)なんですが、良く見るとバイヤーらしき人物が使っている乗り物はターレットだし、床にウィンナーが転がっているし、これは魚市場の景色を変換しているわけです。ディズニーランドを思わせるシルエットを背景に空虚な微笑みを浮かべる二人の子供を描いた「星と夢」はむしろグロテスク。その批判的な視線がより強く出ているのがおそらく「ルーラル」(農村)で、そこで描かれているのは日本のバックカントリーの景色が破壊されている姿です。
それぞれの作家に割り当てられたスペースはそれなりにボリュームがあって、そしてこれだけの人数が揃っているというのはだいぶ贅沢なことだと思います。もちろん、一人一人に絞ってみれば、物足りない点が残ることは否めません。でも、この企画展に出展している作家リストはたぶん、これから注目していく作家のインデックスになるのだろうなと思っています。