■横浜に本社を移した日産自動車が今年から始めた企業メセナが「日産アートアワード」。どういう形式なのか今一つはっきりしないのだけど、「アワード」というからには一種のコンテストなのだと思う。「初回は現代アートを対象に」、とわざわざ断っているので、ジャンルを限定することなく、隔年でジャンルを絞って次は彫刻、次は日本画、といったふうに続くのかな? 同じアートセクターでのメセナを続けている資生堂やポーラ化粧品とは少し違うみたいだ。アワードそのものに実績がないこともあって、なんとなくふわふわしている。
それでもノミネートされた作家には宮永愛子などの名前もあって、若手のインキュベーション企画でもなさそう。とるもとりあえず観に行った。Bankart1929は卒展シーズン以来という気がする。
ノミネートされたのは8名。印象に残ったのは見慣れているということもあるかもしれないけどやはり宮永愛子の作品。いつものナフタリン作品もあったけど、ガラスの中に鍵を封じ込めた作品や、椅子を封じ込めた作品など。「記憶」「追憶」が根底にあると思うのだけど、今回の新作『手紙』につかわれた「旅行鞄」は3年前の愛知で塩田千春がやはり(使い方は違うものの)使用していて、そちらを連想してしまった。
他にしみじみ見入ったのは篠田太郎のビデオ作品。『反射』はバーゼル動物園で撮影した営業時間外の動物たちや職員たちの姿を延々と撮り続けているだけなのだけど、観ているうちに動物たちの置かれている人工的な環境がクローズアップされてきて、居心地が悪くなってくる。もう一つ『SF エスエフ/San Francisco or Science Fiction or How do I Understand the History』はサンフランシスコの海を見下ろす丘の上に築かれた沿岸要塞を撮影したもの。作品中で説明は一切ないので、背景知識がなければその遺構が何なのか解らない。
他、見終えた後に静かに余韻を残したのが安部典子の『渚にて』 紙を切り抜いたものを重ねて立体的な奥行や地形のように造形する作品で、表題となった波打ち際を撮影した映像を穴の開いたスクリーンに映写したビデオインスタレーションが印象的。スクリーンは3枚並び、正面から見ると穴の中に奥に配置されたスクリーンが見える。多層のレイヤーに投影された映像は、映像に写されたその場を覗き込んでいるような錯覚を覚える。そして最奥に配置されたスクリーンにも穴が開いていて、結局映像には欠落した部分が常に存在している。その穴が盲点となり、観ているのに見えていないもどかしさがつきまとう。それは遠い思い出を掘り起こす様に似ているかもしれない。
2013年の日産アワードはまだ発表されていないが、個人的にはそりゃ自分が気に入った作品が選ばれればいいなと思う。ただ、それ以上に日産が今後も継続的に同アワードを続けてくれることを切に願う。