■広島市はデルタの中にある土地で、南北に走る幾筋かの川で短冊のように分断されている。その分断された土地の1つが「吉島」で、この島には平和記念公園があったりする。「吉宝丸」はその吉島というエリアを使ったアートプロジェクト。広島という街をぐるぐる見て回ることも兼ねて、もちろん行きました。
行った日はあいにくの雨。ただ、これまで行った広島はどれも快晴で焼かれるような暑さだったので、それに比べれば全然いいだろうと思ったのですが、結構本気降りでした。
広島駅前からバスに乗って吉島へ。吉島福祉センターのロビーに設けられたビジターセンターで会場サイトの地図を受け取る。雨に濡れないように地図はクリアフォルダに。
巡回ルートは福祉センターを出て左回り、ゴールは神社になるのだけど、それだと回ったあとに休める場所がなさそうだったので、あえて逆に回ることにしました。
最初は神社。表通りから神社に入る道沿いにある古い美容院の窓にテキストが書いてあってちょっと面白かった。神社の近くにある掲示板にも「小さな声で」というテキストがあって妙におかしかった。
次の会場は地元の酒屋の2階。階下から店内の日常の音がまんま伝わってくる環境で、展示されていたantenaの作品は祭りの屋台の並びを思わせて面白い空間の作り方をしていました。
この2階でやはり吉宝丸に出品している鹿児島藍さんとお話をすることができました。もともと服飾デザインを手がけていたという鹿児島さんは、ゼラチンの板をご自身の髪で縫い上げて服に仕立てたという「皮膚」を出展。東京で服もの、糸ものの企画展が連続していたので奇遇だなと思いました。ただ、「衣服」についてはそれをテーマにしたドローイング作品を昨年伊勢現美で見ていますから、もしかしたら服をテーマに選ぶ学生さんは増えているのかもしれません。鹿児島さんの作品「皮膚」は倉庫を利用した駐車場の中で展示されていました。
作品は見かけは透明なドレスという趣で、「皮膚」というタイトルを思えば、作者の抜け殻ということになるでしょうか。「透明な服」そのものには既視感がなくもないのですが、その素材がゼラチン(コラーゲン)と髪、という身体と同じ素材で作られているというのが鍵になります。
薄暗い倉庫空間内での展示で、その荒れたデッドな雰囲気の中で生彩を持っていたと思います。自分の髪を織り込んでいる、という説明を聞いたとき、正直重い情念のようなものを感じたのですが、実際にはそんなことはなく、軽やかなものでした。
倉庫を後にして吉島オデッセイは続くんですが、長いので後半は次回に。