ストリーム・スニーカー
04. Cut Out

 YSP/IPの技術チームを乗せたボックスワゴンが山谷の坂を登りきり、停まった。植え込みの向こうにYSP総合福祉病院の建物が見えていた。水銀灯の硬い光に照らされて、技術者3名と警官2名からなるチームが車道上に降り立つ。警官の一人がガードレールを跨ぎ越えて植え込みに入り、足元のマンホールに鍵を差し込んで回した。警官がもう一人、植え込みに入ってきた。二人の警官は黙ったままマンホールの蓋を持ち上げる。
 技術者の一人はヘッドセットからの指示に聞き入っている。
「‥‥さん、信号が途絶えたそうです」
 警官の一人が腰にぶら提げたライトスタッフを引き抜いて点灯させ、作業孔の底を照らした。もう一人が梯子を伝ってあわただしく穴を降りていく。残る警官も後に続いた。
 穴の底で灯かりが動いた。それを合図に技術者二人も穴に降りる。残った一人はバックアップセンターとの連絡役だった。
 植え込みのマンホールは20年ほど前に整備された共同溝に続いていた。その共同溝は伊勢崎町を南北に横切る基幹ラインから分岐し、塚越の高級住宅地へ広帯域閉鎖通信路を提供していた。それと同時に、この共同溝はYSPネットを構成する物理通信層の一部でもあった。
 四人はライトの明かりだけを頼りに黴臭い通路を急いだ。床下には上下水道とパワーラインが収納されている。遠くから、低くポンプの脈動音が伝わってくる。
 壁は何本もの集合ケーブルで隙間なく覆われていた。そのケーブルは幾本ものグラスファイバーを束ね、合成樹脂の皮膜で覆ったものだった。
「見当たらないな」
 警官の一人がつぶやく。その声をスロートマイクが拾い、マンホール入口で待つ技術者に送られる。
『エコーはまだ出ています。スクープは残っているはずです』
 警官は舌打ちし、黴臭さに顔をしかめた。
 エコー、というのは塚越にある集中交換機が検出した異常反射波のことだった。正確に言えば、検出したのはYSP/IPが交換機に取り付けられたモニタ装置だった。そのモニタ装置はYSP/IPがNTNに対する通例の監査を実施した際、秘密裏に取り付けられた。塚越の集中交換機が無人設備であることと比較的規模が小さいことから、NTNがそのモニタ装置に気がつくまで時間がかかると考えられた。
 警官が持つライトスタッフの光の中に金属の箱が現われた。箱は一つではなかった。握り拳程度の大きさしかないその箱は、ケーブルの途中に無理矢理はめ込まれていた。ケーブルは箱の接合部分で皮膜がはがされ、グラスファイバーの一本一本が箱のコネクタに差し込まれていた。箱はすべての集合ケーブルに取り付けられていた。
「発見した」
 警官が言う。技術者が箱の一つに近づいた。腰からペンライトを取り出して、ケーブルとの接合部を照らす。肉眼で解る程に荒っぽい接合跡だった。
 これがエコーの原因だと、技術者は確信した。この接合部分で反射波が生じている。デジタル信号そのものはつつがなく送信されているだろうが、アナログ波形では減衰と遅延が生じ、反射波が発生していることが解るはずだ。
「こいつだ」彼はもう一人の技術者と目配せを交わした。「間違いない」
 彼は手にしたペンライトで軽く箱を叩いた。
 乾いた音と共にその箱は破裂し、金属片が周囲に撒き散らされた。

'Stream Sneaker'
Satoshi Saitou
Create : 1998.08.02
Publish: 2010.07.08
Edition: 2
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