アンダー・ウォーター
2.

 タウン・かわさき7/25版
 TYISP(東京・横浜産業帯保安警察)は昨夜、旧幸区鹿島田からガス橋にかけて行われた武装ヘリと車の追跡劇はYSP/GP(横浜特別行政区一般警察)との合同演習であったと発表しました。この発表は、当日の追跡劇についての苦情が殺到したためになされたもの。このTYISPの姿勢には誠意が感じられないと憤る人も多く‥‥

 水口はパッドに表示されたミニコミ誌の内容に繰り返し目を通していた。これで8回目になる。
「何かひっかかるのよね‥‥」
 水口は呟くと、椅子の背に体重をあずけた。椅子がきしむ。テーブルの上のマグカップに手を伸ばし、ちらりと窓に目をやる。外は暴力的とも呼べるほどの夏の陽射しに照らされていた。ベランダの白漆喰がまぶしい。クーラーのおかげで室温は快適だったが、赤外線コンロであぶられているような感覚があった。
 このくそ暑い中どこに行ったんだか。
 水口は榊のサングラスを思い返した。
 古い友達に会いに行くとか言っていたけど‥‥。水口はマグカップのアイスコーヒーを一口飲んだ。まさか女?
 水口は笑い出しそうになった。
 ――そんな物好き、いるわけないわ。
 水口はマグカップをテーブルに戻すと、再びパッドと向き合った。地方ミニコミ誌を消し、今度はTYISP広報への問い合わせ結果を表示させる。

 TYISP広報・情報開示請求12239033に対するお答え
 誠に残念ながら、貴方の問い合わせにお答えすることはできません。

 水口は眉を顰めた。水口が行ったのはミニコミ誌に掲載された合同演習に関する詳細資料の開示請求だった。なぜ開示できないのかという問い合わせにも同じ答えが返っていた。
 なぜ。
 水口はそこにひっかかるものを感じていた。なぜ演習に関する問い合わせが拒否されるのか。ミニコミ誌に掲載されたTYISPの対応もどこかぎこちない。新装備でも導入したのか。
 明ならこんな時YSPのデータベースに侵入するのだろうか。
 水口は思った。彼女にはまだそれだけの力量はない。
「なにかひっかかるのよね‥‥」
 水口はパッドの操作にとりかかった。時間はかかるだろうが、それは構わなかった。どうせ暇つぶしなのだ。

'Under Water'
Satoshi Saitou
Create : 1996.06.29
Publish: 2010.07.05
Edition: 2
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