■石塚真一作のコミック作品。映画化もされたりして、長く続いた作品だけどとうとう完結してしまった。一年を通して北アルプス山中で暮らす山男、三歩の山岳レスキューな日々を描いた作品。極端な山男として造形された三歩のカウンターパートとして長野県警の長野県警山岳遭難救助隊に所属している椎名久美を配し、「山にくわしくない普通の人」を登場させている。
三歩は世界の山を歩き渡り、北米のティートンで山岳救助隊員として1年半ほどキャリアを積んだ後、故郷の長野に戻る。そこでアルバイトをしながらボランティアの山岳救助隊員として活動を続ける。そこで長野県警山岳救難救助隊やボランティアなどの仲間たちを得る。山岳救助の現場は生死がかかるので気楽なエピソードは少ない。生死に関わるエピソードの中では、それぞれの人生がそこにかかってくる。シャレで描ける世界ではなく、人情話が殆どになってしまうのは致し方ない。
作品の中で、三歩は超人のように描かれる。人間として完璧ではないが、山男の資質としては完璧だろう。山を踏破する速度は常人以上、人一人背負って山歩きするのも苦としない。状況が止むを得なければ単身で危険なゾーンに入り込み、人を救出して帰還する。常人離れしているというか、人の世界よりも、山に近すぎる。
その活躍には胸がすく想いをすることが多いのだけど、話のバリエーションを作るのも難しいだろうということも想像できた。
最後のエピソードで三歩は長野を離れ、エベレストの近くにあるローツェに再度挑む。同じ時期、三歩の知り合いたちの多くが参加する民間パーティがエベレスト登頂を目指していた。ローツェを苦闘しながらも順調に登頂を続けていた三歩だが、天候の悪化でエベレストの状況が悪化することを見てとると、山頂を目前に引き返し、エベレストに入る。
エベレストの環境は、それまでの北アルプスを舞台にしたエピソードに比べるときわめて過酷なもので、二重遭難、三重遭難の危険をはらみながら三歩の救助活動は続く。状況は悪化していく一方で、最悪の結末を予想せずにはいられない。
結局、三歩は人ならぬ存在だったということなのか。山から来て、たまさか人の世と関わっていたが、最後は山へ帰っていった。そんな感じがする。
しかし、彼のスピリットは形を変えて仲間たちに残された。最初は山暮らしそのものを嫌っていた椎名が救助活動の中でリーダーシップを発揮するまでになった。その救助隊員としての成長に三歩の存在は大きかっただろう。
三歩と椎名の関係については残念なところもあるけれど、彼女の中で三歩は生き続けている。それだけ三歩の存在は大きかったことが解る。そしてまたもう1人、三歩が関わった少年ナオタも山男としてのキャリアに足を踏み入れる。ナオタにとって、三歩の後を追うことが何より大きなヤマになっていることだろう。