■なんか、がちゃがちゃした話。出だしはハードボイルドっぽく、中間は饒舌で冗長なラノベの文体、終盤はところどころ任侠風。でも結局ハードボイルドにも任侠にもなりきれず、すぐに甘い話へと回収されてしまう。作者は携帯小説の出自だそうで、であればショートスパンではエピソードができているのに、全体を通してみると今ひとつとりとめがないというのは納得もいく。
冒頭はアンドロイド〈フィギュア〉によるものらしき殺人事件現場から始まる。その猟奇的な現場もさることながら、被害者の男性が子宮を持つという共通点があることが明らかにされる。そしてその現場で主犯である〈アンブレラ〉と呼ばれるフィギュアの残骸が残されている。しかもその犯人は過去3回「処分」されていることも明らかにされる。次々に現れる〈アンブレラ〉はオリジナルなき模倣犯なのか。
しかし、この現場の謎はすぐに放り出される。それどころか、ディテクティブストーリー的な文体も放り出され、饒舌でコミック的なラノベに切り替わる。ヒロインの造形も、ミステリアスなペルソナはあっというまに捨て去られ、コミカルなよくあるドジっ娘に変貌してしまう。
コミカルな話は確かに可笑しいが、好奇心を満足させるという意味での〈面白さ〉には欠ける。謎の答えは向こうからやってきて、ヒロインは狂言廻しとしてしか機能せず、主体的に何かを解決することはない。読者の好奇心は満たされることはなく、ただヒロインの造形だけで引っ張られていく。
〈フィギュア〉達の造形はいじらしく描かれるが、それが胸に響かないのは、あまりにも手管が見え透いているからだ。〈いじらしさ〉が一つの美点として成立するのは、生身の人間にとっていじらしさというのは特性の一つだからで、それが当たり前のものとして与えられてしまうと話が自動的にある種のパターンに収斂していってしまう。そこに喜びはない。