■多神教の世界を舞台にした神々の覇権を題材としたファンタジー。昔自分が読んだもので似たような話というと『光の王』(ロジャー・ゼラズニィ)が少し似ているかもしれない。ただ、『光の王』は主人公が明確な政治闘争の意志をもって渡り合うのに対して、本書の主人公は状況に翻弄される若い女性を主人公に据え、派手な戦闘シーンは多くなく、どちらかといえばロマンスの色合いが多い。
極端に要約してしまうと、圧倒的な政治力と兵力を持つ独裁体制を倒す階級闘争の話ということになるのだけど、主人公が突然宮中政治の舞台に放り込まれて右も左もわからない状態なので、なかなか状況を俯瞰できない。周囲の人々は事情がわかっているようなのだけど、主人公自身はなかなか解らないまま話が進み、やがて主人公のあずかり知らぬところで設定された予定通りのイベントが起きて全ては成就する。主人公の意志はそこに介在しないのだけど、それを一種の天命として受容する。なので、実際には主人公は何もしていない。彼女は状況を語るために壮麗な舞台装置の中を歩き続け、ミステリアスで危険な男との逢瀬を持ち、そして結末を迎える。
つまり、主人公は狂言回しとしての役割しかない。作中、主人公は兵士としての素質もあることが説明されたりして、いろいろ期待させられるのだけど結部のどんでん返しで肩透かしを食う。これでもし、主人公が自分の非力さをより悲観的に捉えていたら、そのどんでん返しは一種の救いとなったかもしれない。確かに、物語の導入部で早々に結部は仄めかされてはいる。ただ、主人公の生が活かされているような感じがあまりなく、そのことがどこか物足りない。
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