■サンプルリターンするならやっぱりリエントリーで燃え尽きないとダメだろう。みたいな。深宇宙に出て人智を超えた存在に触れて人間の根源的存在をかけてコンタクトを試みる、というプロットは『ソラリス』(レム)とか『バビロニア・ウェーブ』(堀)とかすでにあるわけで、それらに比べるとなんだか小さく小さくまとまった感じ。カラオケボックスの距離感で。
月往還ミッションをジャックして、地球近傍に漂っている謎のニュートリノ発生源に接触する計画を立てるミッションクルー達。至近未来を舞台にしていて、昨今の事業仕分けされる宇宙開発の政治的背景や、技術的背景は綿密なリサーチを重ねたようで、無茶な話に筋を通せているようだけど、描かれるのはカラオケボックスで延々続く呑み屋談義で、肝心のテクニカルな仕掛けを実装する行為はすっぽ抜けているので、結局ヨタ話で終わっている印象だけが残る。おしゃべりでモノは作れないし、動かない。そのテクニカルに難しいところをサラッと流しているのは小説としてのテクニックかもしれないけれど、全体として飲み屋談義のリアリティしか残らない。
結局、書きたかったのは現在の日本における宇宙開発の状況だったのではないかという気がする。そうした状況説明を延々と登場人物たちに語らせる。そういうこちらも解っている会話を延々と聞かされるのは、正直しんどかった。
今更『プラネテス』的な「宇宙へ行くんだっ!」という熱さもないだろうけど、呑み屋談義もあんまりだとも思う。おそらく宇宙へ進出することで、我々の世界・社会・生活に新しい地平が広がるという期待感が薄れていることがこの空回り感の背景にあるのだろう。
だからこそ物語性を獲得した「はやぶさ」は注目されたのだ。今はそうしたものが必要とされているのだろう。
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