■川原泉。タイトルに惹かれて購入。以前『笑う大天使』とか『バビロンまで何マイル』とか読んでいて、別段嫌な印象は受けなかったけれど、とりたてて好きになることもないというなんか微妙な読後感だった。学生の頃に出会っていたら印象は違っただろうなと思う。人生訓めいたお話されてもいまさらちょっとね。
『レナード現象には理由がある』は淡白な恋愛のようなエピソードを集めた短編集で、ただ、シチュエーションそのものはしだいに社会的にセンシティブなものになっていく。収録された4エピソードのうち、前半2話『レナード現象には理由がある』『ドングリにもほどがある』は高校生同士の関係を描き、どちらも優秀な男子学生に欠けている部分をあまり優秀ではなさそうな女子学生が補う、相補性の関係を描いている。
これが後半の2話『あの子の背中に羽がある』『真面目な人には裏がある』ではテイストが変わり、『あの子の‥‥』では18歳の男子高校生と12歳の女子小学生の関係というか、友達づきあいのようなものが描かれ、『真面目な‥‥』では同性愛が扱われる。
これははじめから意図されたものなのか、あるいは似たようなパターンでバリエーション展開するのを避けたためなのかはよく解らない。
『あの子の‥‥』は類型的に見ればロリコンを描いているということになるのだろうけど、ナボコフのそれに比べたら6歳差なんてそれほどのものではない。ただ、気になるのは作者自身のト書きがご丁寧に肯定していることで、それが作風と言ってしまえばそれまでだけど、作者から予防線を張られてしまえば読み取りの幅は当然狭くなってしまう。
『真面目な‥‥』は主人公の二人は異性同士なので(当然)同性愛関係にはない。ただ二人の兄が同性愛関係にあるというシチュエーションが用意される。作中でBL小説への言及があるのだけど、この作品そのものがBL小説も読む読者に向けたリップサービスなのか、あるいは真面目に同性愛について、というかカミングアウトを受けた周囲の人間をコミカルに描こうとしたのかはよく解らない。ただ、同性愛関係にある主人公二人の兄同士は実際の関係にあるのに対し、肝心の主人公二人は「お付き合いしているフリを続けている」として終わるのはちょっとした皮肉なのかもしれない。
個人的には前半2話のような相補的な関係を描いた作品のほうが面白く読めたのだけど、いかんせん相手の男子を優秀に設定してしまうのが弱みなのかもしれない。「優秀な人間」のバリエーションってそう多くはないと思うのだけど。