精神の呼吸

■広島のホテルはチェックインが15時だったので、それじゃあちょっと早めに出かけて大阪に立ち寄ってしまえ、と行程に組み込んだのが国立国際美術館。最初勘違いして新大阪駅の近くだと思っていたんですが、そうではなくて大阪駅からでした。たぶん大阪駅から歩けないこともない距離だと思うのですが、夏場の都市部を歩くつもりはなく、地下鉄肥後駅を最寄駅としました。なにせ、このあと広島まで行ってさらに歩かなければならないんだし。

大阪市立科学館と国立国際美術館

 この時、NMAOでは「モディリアーニ展」「塩田千春/精神の呼吸展」「コレクション2:石内都/宮本隆司展」が開催中。NMAOのサイトで前々から疑問だったのはB2,B3という表記だったのですが、これが文字通り地下フロアを示していることをようやく理解しました。地上にはモニュメント状の天窓だけがあり、ここがエントランスを兼ねていて、後は地下に埋設されているんですね。もうちょっと地上に解りやすいものがあってもいいんじゃないかと思ったんですが、まあ、慣れればいいんでしょうね。

国立国際美術館エントランス

 生意気なこと言うようですが、「モディリアーニ」の方はパス。美術館的にはこちらが目玉展示で、そのついでで現代美術系のB2展示に人を回遊させるという狙いだったと思うのですが、こちらとしてはその「ついで」の方が狙いだったし、時間も限られているということもあったので。
「塩田千春 精神の呼吸」で目を引くのは、エスカレーターで移動中から目に入る赤い放射、《大陸を越えて》の作品。数多くの靴が1点から伸びる赤い糸で結ばれている。靴にはそれぞれ、かつての持ち主たちの靴にまつわる思い出が書き記された紙片がつけられている。その靴の数だけ、それぞれの人生の歩みというのがあったわけで、それを一度にまとまった数で見せられると圧倒される。もちろん遺品ではないけれど、似たようなものかもしれない。それらの靴が赤い糸で中空のある一点に結び付けられているのは、かつて東アフリカにいたという『ミトコンドリア・イブ』からの系譜を示しているのか。
 靴の大群から目を転じると、黒い霞のような中に何か囚われたものを収めたケージが目に入る。《トラウマ/日常》というシリーズで、もやもやっとしたものは黒い毛糸で織り上げられた立体的なくもの巣のようなもの。どうやって織り上げたのか見当がつくようなつかないような感じですが、その巣の中に何かある。衣服であったり、注射器であったり、鍵盤であったり。タイトルに《トラウマ》とあるので、ははーん、と解るようにはなっていますが、注射器や鍵盤はともかく、衣服はわからない。子供服のようだから、子供の頃の記憶がまるごとケージの中に囚われているということか。だとしたら、それはちょっと悲しい。
《トラウマ/日常》とフロアを挟んで反対側にも何か見えていて、そちらもやはり黒いくもの巣状のものがあって、並んだ白いベッドが絡め取られている。《眠っている間に》とタイトルがつけられている作品で、過去の展示では実際に人がベッドに入った形でのパフォーマンスも行われたらしい。「眠っている間に」何かに絡め取られているその何かは、目覚めても覚めない悪夢なのか、不安感なのか、あるいは安直にしがらみか。
 黒い毛糸に絡み取られたベッドの群れの隣の部屋は《皮膚からの記憶》で、茶色の泥に染まった巨大な婦人服が3つ。単に大きな服というわけではなくて、土着的な生の肉体の不在を感じさせる点で居心地が悪い。
 次の部屋では写真の展示。《絵になること》は赤い染料をぶっかけられた少女のポートレイトなのだけど、モデルに染料をかけたものを撮ったのか、撮った写真にさらに加工したものなのか解らなかった。《私の死はまだ見たことがない》では泥水に沈んだ女性が俯瞰で写されていて、なんていうか、モデルさんは大変ですね。
 生きていくことに伴う、不安やあがきといったものがモチーフなのかなと思いましたが、でも、それでも我々は《大陸を越えて》ここにいるわけです。‥‥あ、なんか結構いいまとめ方かも。

 B2フロアでは他にコレクション展として石内都と宮本隆司の写真が展示されています。両者の写真とも部分的にどこかで見覚えあるなあと思ったのですが、都写美の戦後写真展でつまみ食いのように目にしていました。
 宮本隆司は廃墟写真。かつて人が利用していたものが荒れ果てて、形骸となってしまった姿を写しています。石内都は傷跡の写真がメインでした。
 事前にちゃんと調べていれば解る話なんですが、石内都の作品とはまた顔を合わせることになります。もちろんそうなって良かったのですが、たまたまそうなったというのがあんまりいけてない。

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作成:2008.07.21
公開:2008.08.24

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