■せっかく名古屋に来たのだから、名古屋を足がかりに回れるところはまわってみたいと思っていた。そうは言っても地方だから、とそういう形で期待はあまりしていなかったのですが、改まって調べてみれば、無いわけではない。というか、結構ある。ただまあ、都内や横浜みたいに徒歩で数箇所梯子できるような距離感ではなく、だいぶ拡散しているんですが、それでもある。もしかしたらそれはバブルの残光なのかもしれませんが。
まあ、残光にしろなんにしろ、今そこにあるのは幸いなこと。残光であっても、いやそうであればなおさらのこと、見ることができるうちに見ておきたい。もっともここがそういう施設なのかどうかは知らないんですが。
養老天命反転地。
水平な場所が無いところ、平衡感覚がおかしくなるところ、というのは、つまり身体感覚を取り戻す場所ということかな、とあたりはつきました。サイトに記載されている使用法の中にある「ひとであるより肉体であるよう努めること」はつまりは身体性を意識しろということでしょう。とか、思う。
養老天命反転地は最寄が養老駅になります。名古屋からは間に山などもなく、北西に位置する駅ですが、濃尾平野の中ほどを東西に横断する路線というものは実は無く、名古屋からだと岐阜・大垣と北側を廻ることになります。なんていうか、横浜から厚木へ向かうのに、八王子を経由するような感覚か。
大垣から近鉄養老線に乗り換えて桑名方面へ南下。岐阜から大垣にかけての東海道線沿線は工場も多く、第2次産業の景色があるのですが、養老線に入ると景色は一気に田園そのものになります。おかっぱで長髪の女子中高生を数人見かけたのですが、その髪型が妙に珍しいような懐かしいような気がしました。よく言えば美人できゃんな感じ、別の言い方をすればソフィスティケートされていない感じ、あるいは、染まっていない感じ。あしざまに言えば田舎っぽいという表現もできるのでしょうが、都市部には都市部の空気があるように、ここにはここの空気がある。
養老駅まで来ると、周辺の景色は田園そのもの。かろうじて遠くに工場らしき建物が見えるくらい。駅舎内にそば・うどん屋があって、駅前で飲食できるのはそこぐらいという雰囲気。駅前にはみやげ物センターが1つぽつんとあるきり。それもまた風情、というか、数年後にはどうなってしまっているのだろう。
養老天命反転地へは駅前からのびる細い坂道をまっすぐのぼる。途中沿道にある古い木造家屋を見るとつい撮影してしまうのは金沢で身に付けた視線がまだ残っているから。
目的地の手前にはこどもの国があって、ついふらふらと入ってしまう。が、敷地としては別らしい。ただまあ、徒歩で向かうにはこどもの国の敷地を通った方が若干近いみたいです。
行くまでは、養老天命反転地の中心になるのは妙なパビリオンかと思っていたのですがそうでもなく、巨大な窪地そのものが中心だなあと実感。一般的なアートスペースであれば、ビジターが身の危険を感じることはまずないわけで、ホワイトキューブが連なった空間を回遊する形で個々の作品を鑑賞するわけですが、ここは鑑賞するというよりは体験する所。入り口付近にある「極限で似るものの家」で気が付くのは盛り上がった土地に拡大された地図がマッピングされていることで、この歪んだマッピングは楕円形のフィールドの中へ飲まれていきます。フィールドの中は密集して伸びた木々により視線が遮られ、連続した傾斜地の中での移動は常に身体を保持することが求められます。うっかり重心を上げたままバランスを崩せば転ぶのは確実でしょう。ここでは地図を眺めながら漫然と移動することができません。
印象的だったのは子供たちがうれしそうに移動しまくる姿で、思い思いに目的地を定めてはルート開拓をしていました。ここは全く安全な場所とも言い難い所ですが、すぐに適応してしまうのでしょう。山歩きをしていた自分としては、やはり山歩きの時に求められていた感覚を思い出しました。本当の山歩きだと、時間はかかるし、本気で危ない場所もあるわけですが、ここはそういう点では管理された危なさを持つ場所とも言えると思います。
個人的に一番気に入ったのは「閉じきりの間」で、ここでは一切の視覚を遮断された中で狭い斜路を上ったり降りたりします。真っ暗の中を前に手を突き出してそろそろと歩くのもいいですが、片手を壁に沿わせていれば確実に全経路を踏破できます。左手の方が楽しめるかな。感覚遮断というのはなかなか体験できることではないので面白かったですが、ヘンなものを踏んだら嫌だなあと思わないこともなかったです。
ダンジョンの奥には日本列島。見方を変えれば胎内めぐりですね。ヘンなものを踏むようなことはありませんでしたが、暗闇だろうと容赦なく傾斜つきまくりなのでそこは注意です。
一通り観終わって敷地の外に出ると、そこはまあ普通に公園だったりするんですが、その土地の造成がヌルく思えたり、普通の建物がむしろヘンに見えたりと、なかなか反転地の感覚が抜けませんでした。おまけに外に出たら出たでこんなものがあるし。
まだあの敷地が続いているのかと思いましたよ。