■最初の劇場版が『人形遣い』をめぐるエピソードであり、『イノセンス』はその後日譚でした。それとは別にTVシリーズが2シーズンとOVA(SSS)が1つあり、微妙に原作と距離がありました。今回の新劇場版「ARISE」は原作そのものの前日譚という位置づけで、はっきりと描かれることのなかった攻殻機動隊が結成されるまでの過程が扱われています。原作ではほとんど触れられていない部分を扱うので、製作側のフリーハンドの幅は広く、最後に原作の冒頭にあった「桜の24時間監視」へとつながればいい。
『人形遣い』は人工生命体、俗な言い方をすれば魂の問題を扱っていましたが、「ARISE」の軸になるのは『ファイアスターター』と呼ばれるウィルスでした。人格、自我の問題も魂の問題の別の顔でしょう。政府要人テロを追っていく中でファイアスターターウィルスのブローカーの存在が浮かび上がる。ARISEシリーズ独自の設定も多いのですが、そのあたりは先行するOVAが押さえています。
押井版、神山版よりも(バトー以外の)ロマンスの要素が多いのですが、あんまりしっくりいっているようには思えません。あの補佐官はなんなのか。アクションは多くてあまり飽きさせるようなことはなかったのですが、OVAからの引き継ぎ的な描かれ方が多くて、映画単体だと説明不足気味のようにも思います。
ストーリーとしてさすがにまずいんじゃないかと思ったのが一か所あって、作中の政府要人テロで爆殺されたとされる被害者の検視をちゃんとしていないためストーリーが完成しているようになっています。映画としてはそれが劇的な場面への伏線にはなっているのですが、ちゃんと検視していても話は作れると思うので、そこはちょっとひっかかりました。というか、攻殻慣れしていると見え見えの複線なので、そこはちゃんと作った方がよかったのではないかなと。
オリジナルシリーズでも「桜の24時間監視」を思わせるシーンは使われていますが、9課成立後の話なので、その意味では原作1話がちゃんと描かれてはいませんでした。原作のプロローグに使われた暗殺シーンは印象的なので何回か利用されているシーケンスですが、今回の新劇場版でようやく時間軸に沿った形で取り込まれていました。さすがに既視感は強いのですが、今作でようやくちゃんと原作につながったような感じがします。