■だいたい映画そのものが夢みたいなものだけど、その夢を題材にした『インセプション』 夢を直接扱った映画といったら思い出すのは『パプリカ』で、あちらがアニメーションのもつ柔軟な表現方式をぞんぶんに使っていた作品であることに比べれば、こちらはある程度CGでカバーしているとは言え、だいぶ硬い感じはします。大ネタの使いどころがもったいなかったかな。
観ていてずっとひっかかっていたのはモルという主人公コブの奥さんのキャラクターなんですが、彼女は実際には死んでいて、コブの夢の中だけで生きている。ただ「生きている」というのは便宜上の表現であって、彼女を作り出しているのはコブ自身のはずです。
モルはコブの夢侵入活動を妨害するのですが、それは「モル自身の意思」であるはずはなく、コブが意識していない意識が投影されているもの、と見るのが妥当なはず。そういう話立てになっていたら、また違ったテイストを持っていたし、ヒロインとして登場する「アリアドネ」の役回りもその名前が持つ意味と相まって作品に奥行きを出していたと思うのですが。
ところどころ「夢の中」らしくだいぶ無茶な舞台が登場してなかなか愉しませてくれます。ただ、ストーリー本筋と絡むところではあまり大ネタが使われなかったのがなんとなく物足りない。確かに、夢の中は何でもありありですから、その本性を丸出しにしたらお話にならないというのはわかります。ただ、本筋の殆どが通常のアクション映画のようになってしまっているのも確かで、変に醒めてしまいました。
やっぱりこの映画の主軸は「アリアドネ」の役回りに着目して愉しむのがいいのかなと、そんな風に感じています。アリアドネはもちろんギリシャ神話の登場人物で、テセウスのミノタウロス退治にあたり、彼が迷宮から脱出する手助けをした人物。それを知っていると、映画を見ていても何となく筋の先読みができて面白かったり。
ただ、そうするとラストにつけた仕掛けが(面白かったけど)蛇足かなあ。娯楽作品としてはアリアドネについて思いをめぐらすこともなく、単純に愉しめばそれでいいということももちろん解ってはいるのですが。