■公開二日目に観覧。もう一ヶ月以上たっているということで、ネタを割ってしまう内容でも容赦してもらえれば。全体の印象を簡単に言ってしまえば「陳腐」の一言なのだけど、政治的なメッセージは大統領選を意識していないはずはないだろうという露骨でドメスティックなもので、それはそれで印象に残った。
それにしても、いつになったら「マザーコンピュータ」の擬人化モデルを映画は捨てるのだろうか。
中東と思しき場所でのテロリストらしき集会に対する米軍のリモート奇襲攻撃で幕を開け、携帯電話からの横柄な女の指示に従わざるを得ない主人公二人(ジェリー(シャイア・ラブーフ)/レイチェル(ミシェル・モナハン))の不機嫌なロードムービーは面白い。
あらゆる場所のあらゆるデバイスを制御下に置くという「網羅性」はともかくとして、テクニカルな面で言えば全てが実現してしまっている、コンカレントに存在している技術でしかない。プレデターなどの無人航空機(UAV)を遠隔操作し、目標を破壊するシステムはすでに運用されているし、携帯電話を外部制御するソフトも存在している。Googleが改めてその存在を人々に啓蒙する以前からストリートビューは氾濫していたし、これからもその数は増えていくだろう。盗聴インフラの存在は疑わしいというレベルではなく、その存在を前提にしておいたほうがいい。
映画の中の日付は冒頭付近、ジェリーがATMから現金を引き出す時の監視映像にあるタイムスタンプによれば2009年1月。あらゆる情報デバイスを単一ネットワーク配下に置くという『敵は海賊』(神林長平)世界さながらの網羅性はともかくとして、技術的には至近未来でもなんでもない、「今」を描いている。
ただ、導入部で積み上げた技術的リアリティは、当初謎だった声の主の正体が明らかになるまでで、その黒幕が明かされた途端、リアリティとか呼ばれるものはブラックホールルータに吸い込まれて消えてしまう。
端的に言うとこの映画が持っているテクノロジ的なリアリティは映画『2001年宇宙の旅』のアクチュアルバージョンとでも言ったところで、さらに言えば、『フランケンシュタイン博士の怪物』(メアリ・シェリー)の最新バージョンでしかない。
映画としては解り易くラスボスを見せたほうが簡単なのだろうけど、そういう見せ方はファンタジーにしかならない。仮にも「今」を舞台にするのなら、AIはやめた方がいいし、ぺらぺらとしゃべらせない方がいい。少なくとも歌わせるくらいにとどめておいたほうがいいと思う。
ただ、技術的にはともかく、政治的なメッセージはだいぶ露骨でリアリティどころか生々しい。冒頭の米軍による遠隔襲撃作戦は作品中は明確にされないものの誤爆(というか民間人を多く巻き込んだ爆撃)であったようで、その報復テロによる米国人の死者が増え続けている状況が背景にある。そして、主人公二人が巻き込まれた出来事は、この報復テロを引き起こしたそもそもの原因である、爆撃を許可した国家指導部こそが国家が直面している危機そのものであるという判断によるものだ。映画全体としてはテロを防止する形で決着してバランスは取れているのだけど、それだけに過激に語られた「メッセージ」は嫌に耳に残る。
もう大統領選一色という時期だし、民主党優勢ということも伝えられているし、もはや遠慮は無用ということなのでしょうか。