PSYCO-PASS劇場版

■ディストピア的な管理社会を舞台にしたPSYCO-PASSのTVシリーズは管理システムの正体と、その監視システムをかいくぐる体質を持つがゆえに、システムによって「犯罪者」と定義されない犯罪者とシステムの執行装置としての公安官達との対立を描く。「犯罪」というものがシステマティックに判定される、というのは「法」のシステムを単純化した舞台装置で、作中「免罪体質」と呼ばれるシステムに検知されない《犯罪者》の存在は「法によって裁かれない犯罪」という古くからあるモチーフを解りやすく提示している。
 システム化された管理社会とその社会に対する抵抗、というテーマはSFでは古くから扱われている。だいたいが管理社会の打破による人間性の回復や、あるいは管理社会の圧倒的な力の行使による個人の圧殺といった終わり方をするけれど、PSYCO-PASSはそのどちらでもなく、平和な社会を実現するためにシステムを受け入れるが、同時にシステムを信頼せずに牽制する形で妥協する。

 その寓話が示すものについては別として、話そのものはご都合的なところがあって、そもそも「免罪体質」というものがあるならそれに対応できるシステムを持てばいいのにそれはしない。監視システムそのものは一種の合議制で、その合議システムに免罪体質者を取り込むことでシステムが更新される、ということになっているのだけど、それでうまくいく理由ははっきりしない。理屈は解るものの、前提があやふやなので「そういうことになっているのね」と受け止めるほかない。その点では底が抜けてしまっている。

 劇場版でもそれは似ていて、長引く内乱で荒廃した国に巨大なフロートアイランドを建設することからして突拍子なさすぎる。どこからそれだけの資材を調達したのだろう。冒頭部ではシステムを導入した側の反体制ゲリラが不法入国してくるシーケンスが描かれる。彼らの目的は不明のまま、というのはともかくとして、彼らを国内に手引きして国内で拘束し、その記憶から海外に逃亡した元公安官を「発見」して主人公を海外に送り込む、というのは作中の霜月監視官の言葉があるように「まわりくどい」
 主人公は現地でシステムをハックして輸出されたシステムが不正運用されていることをつきとめるのだけど、そんなに簡単にできるのなら、誰でもよかったように思えるし、その結果主人公の属する公安チームを急襲させるというのも乱暴だ。彼らが到着した時点で現地の治安組織に連絡が行きそうなものだし、それもなかったということは現地の空港を制圧してしまったのだろう。これでは公安というよりパラミリタリに近い(そうであっても物語的に問題はないと思うけど)。

 他にも細々としたところはあって(特に終盤は話を畳むのに急いで、変なことを言うキャラがいる)気にならないわけではなかったけど、「自分たちの体制を輸出する」というのが少し前の米国の海外活動を思わせて面白かった。「新世界秩序」という言葉に何か新しい兆しが見えた頃があった時を覚えている。そうしたことを行う是非について踏み込めたらなお面白かっただろうと思うけど、常守朱とそのチームを主軸にした物語であの尺でそこまで広げるのは難しいだろうとも思う。

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作成:2015.01.11
公開:2015.01.18

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