ナイトラニング
1.

 川崎-木更津を結ぶ一本の道。その殆どは海底を走る。震災にも耐えた東京湾横断第一道路。
 その道をバイクが西へ走る。ライダースーツもバイクも全面鏡面処理され、その姿を捉えるのは難しい。水銀でできた生き物のように見える。ナトリウムランプの光が表面で輝き流れる。2筒頭並列ハイドロエンジンがかすかにかん高い音をたてる。ライダーの被るヘルメットにはヘッドアップディスプレイが組み込まれ、速度、回転数、前方・後方車両との相対速度がリアルタイムでバイザーに表示される。時速170キロ。バイク自体に組み込まれた姿勢制御機構を最大限に生かして、無人貨物車を追い抜く。木更津側橋梁部の速度監視システムがバイクに20キロオーバーを通告する。その警告はバイザーに投影されているが、ライダーは無視する。
 サービスエリア・アイランドを通過する。南風がバイクを揺らし、車体がふらつくが、ライダーは全身で振れを押さえつける。深夜。北の水平線は色とりどりに輝く。洋上にせり出す巨大な雲の底がぼんやりと白い。しかしライダーは一瞥もしない。道は海底へ潜る。
 ライダーは振り向きもしない。


'In Night Running'
Satoshi Saitou
Create : 1992.12.01
Publish: 2010.07.04
Edition: 3
Copyright (c) 1992-2010 Satoshi Saitou. All rights reserved.