アダゾにて
6.

 銃声が鳴り響いた。近衛の総攻撃だった。最後の人質であった市長が救出された今、何も遠慮する必要はなかった。
 エングが皮肉気に笑う。
「厄介事がなくなると、途端にあれだ」
「派手な制服でキメてきたんだ、手ぶらじゃ帰れないんだろう」
 ニキが答えている。その声を聞きながら、ナガハマはやりきれない徒労感に襲われていた。結局、自分達は近衛の露払いをしたにすぎない。容赦なく銃撃を浴びせている近衛たちの。
 ときの声が聞こえた。
「突撃だ。勇ましいねぇ」
「こっちまでちびりそうだぜ」
 抑えた笑い声。剣士達は多かれ少なかれ、返り血を浴びている。手の汚れていない男などここにはいない。
「どうした。また悩み事か」
 ニキがナガハマの肩に手を置いた。
「今度は何だ。本当に悩みのタネが尽きないな」
「別に悩んじゃいないさ」
「じゃあ、なんでそんな顔してる」
「ただ疲れただけだ。エングがしゃかりきだったからな」
「引き際じゃねえのか」
 エングがすかさず応え、周囲はどっと笑った。ナガハマは苦笑した。
「俺は仕事を要領よくこなす主義なんだ」
「良く言うぜ」
 再び笑い声。誰もが、この場に集まった男達が剣士団の精鋭であることを承知している。彼らは完璧を期待され、たった今それに応えた。
「近衛のおでましだ」
 誰かが低く呟いた。潮のように笑い声は引いていった。
「お手並み拝見させていただきましたよ」
 ナガハマはその男を知っていた。近衛第一連隊をまとめるゾンネン将軍だった。アルト=フェルマータ女王が手にする懐刀の一つということになる。もっとも、トリラー剣士団にお声が掛かるようではそれも怪しいが。
「お見事。まぁ、あんな連中相手ではできて当然といったところでしょうな」
 ナガハマ達は顔を見合わす。この厭味ったらしい男は何を言いに来たんだ?
「貴殿らが市長を奪回したおかげで、もうじき市庁舎を取り戻すことができるだろう。我が主から託された責任、果たせそうだ」
「そいつはご同慶の至り」エングが応えた。「で?」
 ゾンネンはエングを睨みつけた。
「この度の顛末、近衛から我が主へ伝える。慣例であることだしな。――それでよいな」
 ナガハマ達は気色ばんだ。だが、カナカ坊だけは違った。
「お好きなように」
 ゾンネンは満足したように笑みを浮かべると立ち去っていった。
 御坊、と剣士達はカナカ坊を取り囲んだ。
「あいつら、正直に報告すると思いますか」
 カナカ坊は不敵な笑みを浮かべた。
「教会の知ったことではないな。必要であれば、女王自ら教会に問い合わせてくるさ。お前らの剣はフェルマータ家から授けられたものではないんだぞ」
 では、誰の為に剣をふるったというのだ。ナガハマは思った。


'At The Adazo'
Satoshi Saitou
Create : 2000.04.18
Publish: 2011.01.25
Edition: 2
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