モニーゾ達はトリラー剣士の一群が怒声を張り上げ、通りの影から一斉に現れるのを見た。
「来たぜ、教会の手先、フェルマータの犬共が」
ライドが銃を構えながら言った。その後ろでフェニークは怯えていた。モニーゾは励ますように微笑みかけた。
「フェニーク、君はその『晶竜の部屋』に隠れているんだ。僕らが呼びに行くまで、決して扉を開けるなよ」
フェニークは健気にうなずいた。
「大丈夫よね。モニーゾ。私達、生きてこの館を出られるわよね」
モニーゾはそれには答えず、不意にフェニークを抱き寄せ、唇を重ねた。
「何も心配するな。必ず朝日を拝んでやるさ」
仲間達の間に微笑が流れた。
「俺たちは西翼の階段を固めに行くよ」
ミンツとガラはそれぞれ銃を手に廊下を走っていった。
「それじゃ俺たちは東翼だ」
ロイゾとドーマスも離れていった。残るのはモニーゾとライゾ、フェニークの三人だけとなった。
「行くんだ。フェニーク」
フェニークはこわばった笑みを浮かべながら後じさった。手が壁をただよい、扉のノブを探り当てる。
「待ってるわ」
フェニークはそういい残して部屋に入った。唇に残るモニーゾの感触を指先で確かめる。だが彼女はこれが恋人の最後の余韻になることをまだ知らなかった。部屋の扉を開けるのが、幼馴じみのモニーゾではなく、いかついトリルの剣士となることなど、知る由も無かった。
『ヒライクの花』(ジーゾム・ライ・デニアス、1893)