ナガハマとエングを先頭にして、14人の男達が音も無く館に接近した。騒々しく音を立てる鎖などは極力はずし、下げた剣や背負った銃も動かないよう皮ひもで固定していた。編み上げの靴はスパッツとつながった皮袋で包まれ、靴音もほとんど聞こえない。目指す使用人口に辿り着くと、彼らは素早く2,3人の組に分かれ、扉を挟んで左右に並んだ。
一人の男が鍵を手にして扉の前に立つ。石段は3つ。大人二人がなんとか並んで通れるほどの幅しかない。その石段の下に二人組みが2つ控えた。
鍵を持つ男は慎重に鍵穴へ差し込み、ゆっくりと回した。
ナガハマには恐ろしく長い時間であるように思えた。ふと、目が表通りに向く。石畳に乾いた血溜りの跡があった。窓から放り出された議員の名残だ。頭が潰れていたはずだ。
注意を戻す。
鍵は外れ、扉が開かれようとしている。鍵を外した男は扉を開け放ち、そのまま石段から飛び降りた。僅かな間も置かず石段の下で待機する四人が静かに駆け上り、館に飛び込んだ。それから少し遅れてさらに二人が続く。うち一人は戸口に残り館の中を伺っていたが、すぐに空いた腕を振り、続くように合図を送った。
二人組みが2つ続く。彼らは三階まで続く階段を抑えることが役目だった。
ナガハマは生唾を飲み込んだ。エングと目が会う。幾度となく修羅の庭を生き抜いた男は、不敵な笑みを浮かべた。
「行くぜ、大将」
気が付いた時にはエングと二人しか通りには残っていなかった。ナガハマは走りだした。石段を駆け上り、館へ飛び込む。戸口から階段までの間は前後それぞれ3人づつの剣士が固めていた。廊下には長銃を手にした男が転がっていた。赤い絨毯がどす黒く染まっている。
館の階段を駆け上る。最後の襲撃を援護する4人に追いついた。息を整える。
「行け」
4人が一斉に飛び出した。ナガハマとエングが続く。先を行く4人のうち、1人が破壊鎚を手にしていた。目的の部屋は市長の執務室で、そこに暴徒は立て篭もり、市長に河川税撤廃の公布書に署名させようとしているはずだった。
部屋の前には手製の棍棒を杖代わりに立ったまま居眠りしている見張りがいた。先を行く一人が剣を収め、見張りに飛び掛るとそのまま廊下に押し倒す。破壊鎚を持った男が走りこんだ勢いを生かしてそのままハンマーを振るった。分厚い木の扉は粉々になる。見張りは喉を掻ききられた。
ナガハマとエングは腕木剣を抜いた。その名の通り腕程の長さしかない剣だが、狭い部屋の中でふるうには都合の良い剣だった。
二人は部屋に飛び込む。残る四人は部屋の前から階段にかけての退路を確保するために剣を抜き、銃を構えた。
部屋の中には4人の男がいた。市長の顔は似顔絵で知っていた。市長は机の向こうで椅子にすわり、ペンを握らされている。その左右に二人、机の手前に一人。エングが剣を市長の右に立つ男へ投げつけた。ナガハマは机の上に飛び上がり、そのまま左側の男へ剣を突き立てる。エングは手前の男の後襟首を掴んで引き倒し、首をへし折った。
「市長、お怪我は」
殺した男の服で血糊をしごき取りつつ、ナガハマは訊いた。市長は目を見開き、ペンを握ったまま答えない。ナガハマは剣を鞘に戻した。エングと目が合い、うなずく。
「立ってください。外に出ます」
ナガハマは市長の腕を掴み、引きずり立たせた。エングが先に部屋を出て、仲間に指示を出す。ナガハマは市長に肩を貸し、半ば無理やりに歩かせた。
「一体、君らは」
ようやく市長が口を開いた。
「トリル剣士団」
ナガハマはそっけなく答えた。