■金沢に到着すると、まっさきに「ひがし茶屋街」へ向かう予定だった。初日はひがし茶屋街で古い金沢の家並みを観てから兼六園に向かい、石川県立美術館を観たらあとは食事をして終わり。そういう計画。金沢駅西口4番バスターミナルでえふえむ・エヌ・ワンの金沢工大のカリキュラム説明みたいな放送をぼんやり聞き流しながら橋場経由のバスを待った。
ひがし茶屋街は城北大通りの浅野川大橋から100メートルほど奥まったところにある、100メートルほどの長さと奥行きを持つエリアで、茶屋が集まるメインストリートはちょっとしたテーマパークにも似た雰囲気がある。でももちろんテーマパークではない。
観たかったのは古い家並みで、単に古い木造家屋というだけであれば、横浜なら三渓園があるのだけど、三渓園はそれこそテーマパークであって、生活感は全くない。実は名古屋でもちょっと古そうな民家というのを時折見かけることがあるのだけど、それらがまとまってひとつの街路を形成しているところは未だ見かけたことがない。名古屋にも昔は金沢に似た都市景観を見せていた時期があっただろうと思うのだけど、そのかつて見せていたであろう、古い家並みのよすがを金沢で目にすることができるのではないかという気がしていた。それなら京都の方がいいんじゃないかという話もあるんだけど、そこはそれ、美術館を見に来たついでなので。
志摩というお茶屋の建物が見学用に開放されているので、そちらに寄らせてもらいました。お茶とお茶菓子もあったようなんですが、お茶を嗜めるような格好ではなかったので、そちらは遠慮しました。
お茶屋、というかつまり廓なんですが、2階が客間で、1階が台所や帳場といった、いわゆるスタッフルームになっていて、2階は派手で明るく鮮やかなのに対して、1階は質素・簡素で実用本位な作り。1階は昼間でも薄暗いのが印象的でした。なるほど、陰翳礼讃とはこういうビジュアルのことかと。昼でこれだと夜はどれほどの暗がりに沈むのか。
ひがし茶屋から兼六園まではのんびり歩いて30分ほど。坂道を上がってみれば、そこはさすがの5月連休。観光客でごったがえしていました。間違いなく自分もその一部なわけですが。
新緑は美しかったのですが、ああまで人が多いと風情もへったくれもなく。山の手の眺望を楽しみながら、さっさと兼六園の奥へ奥へと。気が付くと石川県伝統産業工芸館前に。兼六園の入場券売り場で石川県美術館が改装中で入れないことを知っていたので、その代わり、というわけではないですが、やはり伝統美術のコンテキストを多少なりとも知っておくことは必要と、工芸館に入りました。人でごったがえしている兼六園とは対照的に人が少なく落ち着いた雰囲気で和みました。
工芸館では、加賀友禅、久谷焼、金沢箔、等など。久谷焼が金沢ということを知りました、というのはともかく、久谷に複数のモードがあるのは面白かったです。基本的には赤、黄、緑のカラーコンポジションと絵柄の組み合わせということになるのかしらん。それとは別に、昨今のLOHS対応かどうかはわかりませんが、無鉛染料を開発したり、透明赤の発色を出すために金原子クラスタの粒子サイズを揃えるナノテクを使っていたりと、伝統工芸という形態をそのままに、素材に新技術を投入しているのは面白かったです。見ていて飽きなかったのは金箔工芸品で、単純に光物で美しいということはあるんですが、その加工技術やプロセスの見当がつかないというのも惹かれる理由でした。
工芸館を出た頃は17時をまわっていて、この日の金沢探索行も終わりにするころ、と食事処を探しに香林坊方面へ。つづく。