チューリングメイル

----------------------------
Date: Fri, 18 Aug 2000 13:46:25 +0900
Reply-To: vrg1ml@llgwh.co.jp
Precedence: bulk
X-Sequence: vrg1-official 1484
Errors-To: master-vrg1@llgwh.co.jp
Sender: master-vrg1@llgwh.co.jp
From: kotono "Smiley" suzuki <k_suzuki@mailbox.foo.or.jp>
Subject: [vrg1-official 1484] [BR] XHHDEB_1 module

バグ・レポート
症状:高負荷時のVR空間リフレッシュシーケンスで異常終了
原因:メモリ取得エラーハンドリングの漏れ
対策:メモリ取得エラーハンドリング(類似ケースをパターン
   走査で摘出済み)
----------------------------
「と、まあ、このようにしてメールが流れるわけです」
 御崎はディスプレイに表示されたメールを見ながら説明した。彼はゆるやかにカーブを描くオフィスデスクの前に座っていた。デスクの上にはワークステーションのディスプレイとキーボードがある。デスクの奥は背の高いパーテーションで塞がれ、シアーズの冷蔵庫にも似た本体はその向うに隠れていた。
「グループウェアではなく、あえてスタンダードなEメイルを採用された理由は何でしょうか」
 大原は質問した。彼女は某ビジネス誌に勤める編集者で、ここへは取材で訪れていた。
「VR1研が今回採用した分散開発体制というのは」御崎は淀みなく答える。「実は、将来うちが全面的な在宅勤務体制に移行するための、いわば、実験的な側面がありまして、メンバー各員がすでに自宅に持っている環境をそのまま利用することが前提とされたわけです」
「なるほど、完全在宅勤務ですか。話はそれますがその際の給与体系などはどのようになるのでしょう。確か、御社では時間給を採っていましたね」
「そうしたお話でしたら‥‥」
 その時、チャイムが鳴った。「失礼」と断って、御崎はディスプレイに向き直った。チャイムはメール着信を知らせる合図だった。御崎は内容を確認し、それを公開しても構わないと判断して大原に見せた。
----------------------------
Date: Fri, 18 Aug 2000 13:59:43 +0900
Reply-To: vrg1ml@llgwh.co.jp
Precedence: bulk
X-Sequence: vrg1-official 1485
Errors-To: master-vrg1@llgwh.co.jp
Sender: master-vrg1@llgwh.co.jp
From: hiroya "BooDoo" konno <h_konno@localhost>
Subject: [vrg1-official 1485] Enkai,Enkai,Daienkai

 ところで、バグ出しのスケジュールも前倒し出来ているし、
そろそろ、工完の前祝いなんて、どうだろう。
----------------------------
「まぁ、こういうメールも流れるわけです」
 御崎は苦笑した。
「業務と関係ないメールもあるわけですね」
「筋論で言うなら禁止なのですが、そこまで厳密にやると士気が下がりますから、黙認しているわけです。それに、自分だって一枚噛んでますしね」
「なるほど」
 大原は微笑んだ。
「それで、さっきの話の続きですが、そういった事でしたら人事の方にお尋ねになって下さい。ただ、年棒制に出来高を組み合わせるとかいったような話は耳にしたことがあります」
「だいたい解りました。そうですね、詳細は御社広報へ改めて‥‥。ところで、先ほどのお話ですと、メンバー員の環境をそのまま使うということなのですが、本当にそれだけで十分だったのでしょうか」
「いや、それが‥‥」御崎は微苦笑を浮かべる。「実際には暗号システムだけはインストールしてもらっています。Bレイヤーのプライベートコネクションで暗号化、複合化をするためにです。ナイトメア社のシステムを採用しました」
「RSAで充分だとお考えですか」
「どういう意味で充分かというのが‥‥」
 チャイムが鳴った。
----------------------------
Date: Fri, 18 Aug 2000 14:12:19 +0900
Reply-To: vrg1ml@llgwh.co.jp
Precedence: bulk
X-Sequence: vrg1-official 1486
Errors-To: master-vrg1@llgwh.co.jp
Sender: master-vrg1@llgwh.co.jp
From: miki harada <miki_harada@nexas.or.jp>
Subject: [vrg1-official 1486] Re:Enkai,Enkai,Daienkai

> ところで、バグ出しのスケジュールも前倒し出来ているし、そろそろ、工完
>の前祝いなんて、どうだろう。

 さんせ~い\(^_^)/
 でも、こういうのって生身の方から言い出さないといけな
かったのにね。
----------------------------
 リプライは早かった。
----------------------------
Date: Fri, 18 Aug 2000 14:12:53 +0900
Reply-To: vrg1ml@llgwh.co.jp
Precedence: bulk
X-Sequence: vrg1-official 1487
Errors-To: master-vrg1@llgwh.co.jp
Sender: master-vrg1@llgwh.co.jp
From: hiroya "BooDoo" konno <h_konno@localhost>
Subject: [vrg1-official 1487] Re2:Enkai,Enkai,Daienkai

> さんせ~い\(^_^)/
> でも、こういうのって生身の方から言い出さないといけなかったのにね。

 別に暇だから構いませんってば。
----------------------------
「一応釘を刺しておかないと」
 御崎はそう呟いてキーボードに向かった。
----------------------------
Date: Fri, 18 Aug 2000 14:14:10 +0900
Reply-To: vrg1ml@llgwh.co.jp
Precedence: bulk
X-Sequence: vrg1-official 1488
Errors-To: master-vrg1@llgwh.co.jp
Sender: master-vrg1@llgwh.co.jp
From: joutaro "JoJo" misaki <j_misaki@localhost>
Subject: [vrg1-official 1488] Re3:Enkai,Enkai,Daienkai

<メンバー各位>

 今、取材の方(美人だ)が見えられているので、くれぐれも
ヘンなメールは流さないように!!

                    チーフ@VRG1

----------------------------
「これ、記事にはしないで下さいよ」
「よく承知しておりますとも」
 大原は携帯端末の表面をペンで叩いた。
「ええと、それで何でしたっけ、そうそう、RSAで充分とお考えなのかという話ですが‥‥」
「あー、そうでしたね。もちろん、充分だと考えています。つまり、解読にはライフサイクル以上の時間がかかるという意味で」
「解読できた時には無価値になっていると」
「そうです。それに、RSAのシステムは送り手と受け手の認証システムでもあるわけですから、外部からメンバー員を騙ったデータが入り込むこともないわけです」
 チャイムが鳴った。
----------------------------
Date: Fri, 18 Aug 2000 14:20:41 +0900
Reply-To: gws@llgwh.co.jp
Errors-To: mail_master@llgwh.co.jp
From: GeneralWorkSection <gws@llgwh.co.jp>
Subject: the report of konno's death

<御崎>

 次号の社内報に載せる<今野>の訃報記事、締め切りが近づいています。
お忙しいこととは思いますが、早めの提出をお願いします。

                   社内報編集班@総務
----------------------------
「あの、今野という方は」
「うちのメンバーで、優秀な奴でしたが、先日交通事故で亡くなりまして」
「いえ、そうではなく、あのメールは」
 御崎は軽く微笑んだ。
「どうも、やり遺した仕事が心配らしくてね。ああしてメールを出してくるわけです。付き合っていた女の子のことでも心配してやればいいのにと、皆で言っているんですがね」
「なるほど? あー、いいお話ですね。それ、囲み記事にしても構わないでしょうか」
「それはちょっと‥‥」
 チャイムが鳴った。
----------------------------
Date: Fri, 18 Aug 2000 14:24:30 +0900
Reply-To: vrg1ml@llgwh.co.jp
Precedence: bulk
Errors-To: master-vrg1@llgwh.co.jp
Sender: master-vrg1@llgwh.co.jp
From: hiroya "BooDoo" konno <h_konno@localhost>
Subject: No

 記事にするのは勘弁してください
----------------------------
「だ、そうです」
 御崎は答えた。


'Turing Mail'
Satoshi Saitou
Create : 1996.12.06
Publish: 2010.05.31
Edition: 2
Copyright (c) 1996-2010 Satoshi Saitou. All rights reserved.