光魚

 光魚は無限遠に広がるΔtの海を泳ぎます。その姿は六次元に畳み込まれたサイオン・チャート上でパラメータ同期した時だけ目にすることができると言われています。
 光魚の存在が知られるようになったのは、クリーブル・ウォン・カビアによるタウ・ケティへの遍在航法による初行程によってでした。遍在航法はそれまでにも無人機で実施されていましたが、光魚の存在を認識するためには人間が必要だったわけです。
 クリーブルはこう書き遺しています。
 ――その姿が疑似平面に投影されたスクリーンの中で泳いでいるのを見た時、わたしはわたしがわたしを抜け出して、二十四次元に拡張されたΔtの空間をサイオン・チャートの双曲線に沿って流れ出しているように感じた。あのたおやかな泳ぎに比べれば、サイオン・チャートも遍在航法も、とてもくだらないものでしかない――
 もしもあなたの乗った遍在航法船が滑らかにパラメータ同期できたとしたら、もしかしたら光魚を見ることができることでしょう。その時あなたは狭い船室で椅子に縛り付けられていることを忘れ、光魚と共にΔtの永遠に広がる海を泳いでいる自分を見つけることになるのです。


'The Light Fish'
Satoshi Saitou
Create : 1997.07.16
Publish: 2010.05.31
Edition: 2
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