■山形から鎌倉の異母姉妹宅に越したすずは地元のFC「湘南オクトパス」に入団する。病気で脚を失ったチームメイト多田を見舞う女子中学生達の姿にいらだつすずはボールを彼女らの方へ蹴りこんで牽制する。「わざとはずしたろう」とからかうチームメイトの冗談に「そうよ」と応えるすずに、主将の風太はぞっとしつつも惹かれていく自分の気持ちを否定できないでいた。
すずは、地元金融機関に勤める姉、佳及がつきあっている相手の男に不審なものを感じていたが、そんなある日、その男を街中で見かける。その後を密かに尾けたすずは、男の秘密を知ることになるのだった。
というのは嘘ではないけど、そういう話でもない吉田秋生版「若草物語」的連作短編の2巻目。『花底蛇』『二人静』『桜の花の満開の下』『真昼の月』の4編を収録する。
1巻で提示された「家族」の再構築というテーマは通奏低音のように鳴り続けている。1巻収録の『佐助の狐』の後日談であり、裏話的にエピソードを補完する『花底蛇』で、すずは他人の家族の秘密に触れる。『二人静』『桜の花の満開の下』はそうしたテーマからは少し離れて、すずの同世代間のエピソードになる。こちらはやはり1巻に収録されていた『二階堂の鬼』の続きと言えば続きになる。
『真昼の月』でフォーカスは幸に移り、彼女が抱えている両親との確執がテーマになる。
中学生日記風の『二人静』『桜の花の満開の下』はそれぞれ微笑ましいのだけど、一番面白かったのは『真昼の月』のエピソード。
いろいろと経緯があって、幸とすず、二人きりで台所に立っているとすずが泣き出してしまう。すずは幸たちの家庭から父親を引き離した、すでに亡くなっている自分の母親について謝る。「‥‥奥さんのいる人好きになるなんて、良くない」 その言葉を聞いて衝撃を受ける幸の横顔を描いてページは終わる。
実は幸自身が不倫状態にあって、そのことを考えるとすずの言葉は幸自身に向けられたものでもあるのだけど、幸の内省は自分自身にではなく、あくまでもすずを気遣う方向へ向けられる。
先日の『停電の夜に』(ジュンパ・ラヒリ)収録の『セクシー』において、主人公の想像力は不倫相手の家族に使われるのだけど、『真昼の月』ではそこまでには到っていない。ただ、今後のエピソードで幸自身が抱えることになった矛盾(というほどではないか)は改めて扱われるのではないかという気はする。
母に反発する娘が成長して娘を産み、自らが反発される側に立つ。『からくりからくさ』(梨木香歩)にも似た、営々と繰り返される感情の波。早くから母を失ったすずは、自らはそのアラベスクに嵌まり込まないまま、周囲に織り上げられていく唐草模様を俯瞰しているようだ。